研究の足跡(その1)

主な論文の内容を裏話とともに簡単に紹介しています。

第1部:学生(京大修士~博士)時代(2013~2016)
第2部:神戸大研究員時代(2016~2020)

~第1部~

類型化による潜在的な利用者への接近法(衛藤ほか、2014)
ロジャースの普及理論を援用し、SNSの潜在的な利用者をカテゴリーに分け、利用促進の方向性(戦略)を論じたもの。

研究の裏話
デビューとなる論文。今から思うと、一番理論的な内容かもしれません。慣れない統計分析、初めての査読対応に学会発表と、とにかく大変だったし、すごく時間をかけた記憶があります。

修士に入り、当時社会人ドクターだった方の元で、まだfacebookの国内認知度も低い頃、村のおじいちゃんおばあちゃんにタブレット(iPad2)を配り、SNS(facebook)に地域の情報を発信してもらう、という割とむちゃくちゃなプロジェクトに関わらせてもらってました。

私自身facebookをやったことがなかったので、とりあえず登録して使ってみて、翌週には地域で講習会をしているといった状況で、こっちが教えてもらいたいくらいなのに、と思いながらも、カメラの使い方、写真投稿、ポケットwifiの使い方などを見よう見まねで教えていました。

そういう利用を促す活動を研究としてやってごらん、という割とふわっとしたお題を与えられ、いろんな文献を探して読み進める中で「イノベーションの普及」という本に出会います。

イノベーションの普及 | エベレット・ロジャーズ, Everett M.Rogers, 三藤 利雄 |本 | 通販 | Amazon
イノベーションの普及

農学部(農業土木)だったこともあり、それまでまったく馴染みのないものでしたが、社会学ではわりと有名な本のようで、文系学部出身の人では知っている人もいました。

修士論文を書くにあたり、論の柱となった本(理論)で、具体事例もふんだんで読みやすく、今でもたまに読み返します。

マーケティングの分野で、ビジネス書としても読まれることも多い本ですが、なにより著者のロジャースが農村社会学を出自としており、複数の農業技術の普及に関する研究から一般化させるかたちで、「普及学」なる理論体系を構築したともいえる名著で、普及に関する後発の研究も次々にレビューを重ねながら版を改訂するごとに内容が進化(深化)していく圧巻の出来です。新技術(イノベーション)の普及を研究で扱うなら、引用文献一覧のためだけでも買う価値ありの良書です。

書籍紹介が思いのほか長くなってしまいましたが、思い出深い論文です。研究プロジェクトの第三者評価の場で内容を報告させてもらう機会があり、出席いただいた先生に「面白い分析ですね」と言っていただけたのがとても励みになりました。

オンラインコミュニティの活用と集落間連携(衛藤ほか、2015)
旧村単位でのオンラインコミュニケーションが集落間の連携を促す可能性があるのでは、ということを検証した論文。

研究の裏話
二度にわたるアンケート調査データから、さらにいえること、分析の余地はないか、とアウトプットを探ったような論文。

尊敬する当時ドクターの先輩が「たとえ90%の出来であっても、コンスタントにアウトプットを出し続けられるのが職業研究者。その中で100%を超える出来の論文を出せるのが一流」といったようなことを言っていて、なるほどそういうものかと納得した覚えがあります。

とはいえ、この論文は・・・指導教員からは落穂拾いのような論文と評され、ゼミではこんな内容で投稿するのかといった厳しい意見を浴びせられ、自分でもあまり納得のいく仕上がりにはなりませんでしたが、それでも出そうと何とか一本につなげたような論文です。図らずも、無理やりに論文としてまとめあげる能力(?)を示すと同時に、共著者やゼミ仲間を呆れさせるのに十分な一本でした。こうして振り返りながら改めて読み返していると、本数が求められる中でも、良質な一本を書き上げたいと思う今日この頃です。

インターネット利用を促すための外的支援(衛藤ほか、2015)
地域での実践(利用促進活動)もだいぶ進み、検証ができる段階になり、外からの働きかけのうち、効果がある・ない、といったことを段階に応じて整理して論じたもの。

研究の裏話
この頃から、論文の投稿先を意識するようになりました。それまでは〆切にあわせて投稿先(学会)を選んでいましたが、内容から投稿先を決める、投稿先に応じてトーンを決めるということを意識するようになりました(当たり前のことなのですが)。

このあたりから、所属する国内学会への投稿で、査読で落とされることがほとんどなくなりました。この論文は社会情報学会に投稿していますが、農村計画という分野の中で、情報化やオンラインコミュニケーションといった題材がやや異質だったこともあり、投稿する論文が学会のテーマに合っているかを良く考える必要がありました(それまで学会発表では、テーマの異質さから、思っていたセッションで発表できないことも多くありました)。そうした中で、同じ材料であっても、投稿先に応じた書き分けができるようになってきたのだと思います。

そのため、農村部でのインターネットの利用状況や促進といった、情報技術やその利用を中心に論を展開し、社会情報学的な文脈を意識して書いています。

移住・定住促進と6 次産業化推進の相補関係(衛藤、2017)
単独で成立しづらい移住・定住事業と6 次化事業を、一体的に運営すると人と資金の面で相乗効果があり、持続性が高まることを実証的に示した論文。

研究の裏話
実践が先な論文。養父市での地域おこし協力隊としての活動の中で、研究的な視点を持たずに関わり出した事業から、「いやいや、これって実は面白いかも」とデータを整理しながら論文化を目指したもの。プロジェクトの立ち上げから関わっているので、データは豊富です。

神戸大に就職した最初の年(2016年)に、慣れないイベントの企画や調整ごと、留学生の受け入れなどいわゆる業務に追われ、まったく研究が進まない(調査や論文を書く時間がない)焦りの中、新たな調査ができないならこれまでの蓄積で書こうと、定性的な内容で書くことを試みた論文です。

それまで定性的な内容を補足的に使いながら書くことはあっても、定量的な分析に主に基づいて書くことが多かったので、当時としてはチャレンジでしたが、その後は定性的な論文を書くことが増えました。

個人的には面白い!と思っているのですが、学会発表では、つい熱が入り背景と問題意識をしゃべりすぎて結果や考察を説明しきらないまま発表を終えるという失態もあり、まだまだ評価されていない研究(?)です。

第2部へ続く

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